依田一義のエネルギーコラム ~産業技術総合研究所の新しい太陽電池モジュール~
産業技術総合研究所(産総研)が新しい太陽電池モジュールを開発した目的は、太陽電池の安全性と信頼性を向上させながら、設置できる場所を広げることにある。そのために燃えにくくて、割れない、しかも軽量で簡単に設置できることを目指した。
工夫した点は太陽電池モジュールを構成する部材だ。市販の太陽電池モジュールは結晶シリコン(Si)の上に半導体を作って発電する方式が主流になっている。従来は合成樹脂のEVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)を封止材に使って太陽電池を保護したうえで、表面を強化ガラスでカバーする構造が一般的である。
これに対して新開発のモジュールは封止材に耐久性のあるシリコーンゴムのシートを採用した。信越化学工業が太陽電池モジュール用に開発したもので、太陽電池の素材になるシリコンを化学反応させてシリコーンを製造する。シリコーンはゴムに近い性質があるため、柔軟で燃えにくいことが特徴だ。ただしEVAと比べて製造コストが高い難点がある。
産総研と信越化学工業は太陽電池モジュール全体のコストと重量を抑えるために、外側のアルミフレームで太陽電池を固定する方法に代えて、アルミ合金板を裏面の素材に使って太陽電池を固定する方法を採用した。封止材に耐久性の高いシリコーンを使うことで、モジュールの表面も厚いガラスではなくて薄い高分子フィルムに置き換えた。試作したモジュールは同じサイズの従来型と比べて重さが約2分の1に軽くなった。
鋼球を落としてもシリコーンが衝撃を吸収
封止材のシリコーンや表面材の高分子フィルムは燃えにくいため、裏面材のアルミ合金と組み合わせてモジュール全体の難燃性を高めることができる。木製の火種を使って建築基準法に基づく燃焼・飛び火試験を実施したところ、従来型のモジュールと比べて新開発のモジュールは火種の影響が小さかった。
従来型のモジュールでは表面のガラスが割れたほか、EVAによる封止材や裏面のバックシートまで燃焼した。一方の新モジュールは火種の灰などが表面に付着した程度で、シリコーンの封止材、高分子フィルムの表面材、アルミ合金の裏面材に大きな変化は生じなかった。
さらに衝撃に対する強度を調べる鋼球落下試験も実施した。重さが225グラムの鋼球を高さ1メートルからモジュールの表面に3回落下させて、太陽電池の出力を測定する試験だ。従来型のモジュールは太陽電池を構成するセルの一部が割れて、出力は87%まで低下した。
新モジュールには破損がほとんどなく、出力も99%で影響は小さかった。シリコーン封止材が鋼球落下の衝撃をやわらげる効果があったと産総研では評価している。太陽電池モジュールの破損状態を評価するために、外部から電流を加えてセルの発光状態を観測するエレクトロルミネセンスの画像を比較しても両者の違いが明確に出た。
このほかに荷重試験や高温・高圧試験(温度85℃、湿度85%)を実施した結果、新モジュールは88キログラムの荷重に耐えられる強度があり、3000時間にわたる高温・高圧状態でも出力が低下しなかった。今後さらに信頼性を評価する各種の試験を続けながら、モジュールの構造や部材の最適化を進める予定だ。
軽量で難燃性と耐衝撃性が高いことから、電気自動車の屋根に搭載する太陽電池モジュールや、住宅の建材と一体型になった太陽電池モジュールの製品化を想定している。
依田一義の不動産コラム ~外国人に人気の賃貸物件の特徴とは?~
外国人に人気の賃貸物件の特徴とは?
2016年はリオオリンピック、4年後の2020年はいよいよ東京オリンピックです。
2020年に開催予定の東京オリンピックに向けて、政府は訪日外国人を4,000万人、インバウンド消費額を 8兆円まで増やすことを新たな目標に掲げました。また、そのための建設ラッシュを見据え、外国人労働者を受け入れる方向で定住や永住を勧めているほか、看護や介護などの分野でも外国人労働力を必要としています。
今後ますます増加が見込まれる外国人労働者ですが、保証人や敷金などの問題もあって外国人が住みたいと思える物件が非常に少ないというのが実情です。そこで今回は、「外国人に人気の物件」の特徴について考えてみたいと思います。
■人気物件1 保証人や敷金・礼金などが不要な物件
日本の賃貸契約では、敷金、礼金、更新料などを不動産会社に支払う必要があります。ところで日本以外の国々では、どのような仕組みになっているのでしょうか。調べてみると、日本の「敷金」にあたる制度は、欧米諸国などでもごく一般的に存在していました。アメリカでは「security deposit(セキュリティ・デポジット)」という名前で広く知られています。セキュリティ・デポジットは部屋を破損したり、家賃を滞納したりした場合などの支払いに使用され、退去時に残金は返却されます。
一方で、「更新料」は世界的に見ても日本独自のシステムでした。また、「礼金」が制度化している国はほとんど見当たりませんでした。外国人専門の賃貸不動産物件情報サイトでは、礼金のことを「Key money」と表現して、「鍵と引き換えに払う権利金」という説明になっています。
連帯保証人が必要な点も、外国人が部屋を借りづらい理由の一つでしょう。最近は日本でも「敷金・礼金なし」「保証人不要」の物件が見られるようになりましたが、そういったケースはまだ珍しく、入居時の初期費用を抑えたい外国人にとって、こうしたシステムが大きな足かせになっています。
礼金や仲介手数料などがかからず保証人も必要がない部屋は、外国人にも理解しやすく需要が高いでしょう。
■人気物件2 家具・家電付きの部屋
家具・家電付きの部屋も、外国人の人気が高いポイントです。生活に必要な家具・家電を備えた物件は、入居したその日からすぐに生活できます。退居時に不要になった家具や家電の処理費や運搬費も抑えられる点が評価されているようです。実際、外国人向けの賃貸情報サイトでは必ずと言っていいほど「家具・家電付き」が検索条件に入っています。
これに加えて、水道・光熱費込み、ネット環境も整備されていれば、一層引き合いが高まると考えられます。
例えば、空室が続く古びた和室であっても、家具を和モダン風に統一して畳や襖を新しいものに変えると、外国人には珍しい茶室のような和室に変身します。日本人なら避けてしまうような古い物件も、日本文化が味わえる貴重な物件として価値を見出してくれるかもしれません。訪日外国人がわざわざ高いお金を出して温泉宿に泊まり、和風バックパッカーズホテルが人気なのは、「日本文化を味わいたい」という欲求が少なからずあるからでしょう。古物件がもつ「味わい」を生かした低予算のリノベーションは、空室を満室に変える可能性を秘めています。
■人気物件3 首都圏の10万円以内の物件
入居時の初期費用と同じぐらい重要視されるのが、毎月の家賃です。
一般賃貸の場合、首都圏で築10年以内、6万円以下の物件は人気が高く、周辺環境においても、最寄り駅から10分以内で病院やコンビニ、スーパーが揃っている物件は、特に需要が高いとされています。留学生を受け入れている、大学や専門学校の近くにある物件も、人気が見込まれます。この傾向は日本の顧客と何ら変わりありません。
■繁華街やデザイナーズマンション、ルームシェアも人気
都内在住の外国人が住みたい街に挙がってくるのは「新宿」「渋谷」「秋葉原」「六本木」「浅草」など、人が多く、24時間営業の店があり、繁華街がある街が注目されています。一般的に日本人の場合、住まい選びの際に「喧噪」を嫌う傾向があるようですが、海外では24時間営業の店や繁華街がある方が、治安が良いとみなされるようです。
このほか、建築家の設計した個性的な部屋が魅力のデザイナーズマンション、眺望良好の高級ホテルをイメージさせるコンシェルジュ・トレーニングジム・プール付きタワーマンション、庭付き・駐車場付きの一戸建て、ルームシェアに対応した物件などにも人気が集まります。各国大使館やインターナショナルスクールが点在する麻布・広尾には、外資系企業駐在員などを借主とする外国人向け高級物件が多数あります。
■外国人専門の保証サービスを活用してリスク回避
上述の「人気物件の特徴」の一つに「保証人不要」を挙げましたが、実際のところオーナーの立場からすれば、保証人不要というのはかなりのリスクを伴った問題です。保証人の問題だけでなく、外国人に物件を貸すとなると「言葉が通じない入居者に、どう対応したらいいのか」 「家賃を滞納された場合は?」 「与信管理が難しい」「騒音問題など周辺に迷惑をかけたりしないか?」など、次から次へと不安が出てくるのではないでしょうか。
しかし最近は、そのような不安を解決してくれる、外国人入居者専門の保証機関も存在しています。こうしたサービスをフル活用することで、上記のようなリスクはかなり軽減できるようになりました。
今回は、訪日外国人に人気の賃貸物件の特徴について紹介しました。
日本は、18歳人口が2018年に100万人を切ると言われています。賃貸住宅のメインターゲットとなっている大学生や、都市部の若年層人口が減ってしまえば、供給過剰による空室率の上昇、家賃相場の下落が起こるかもしれません。
せっかく投資した物件を、万年空室の「負の資産」とさせないためにも、外国人を意識した賃貸経営を検討してみてはいかがでしょうか。
依田一義の不動産コラム ~JR京都駅周辺ホテルの大規模改装や新・増築が活発化~
JR京都駅周辺でホテルの大規模改装や新・増築が活発化している。改装はほぼ一巡し、多くのホテルが京都らしいデザインを採用するなどして競争力を強化。宿泊特化型ホテルの新・増築計画も相次いでおり、京都の玄関口で宿泊客の獲得競争が過熱しそうだ。
リーガロイヤルホテル京都(京都市下京区)は、2月から休業して行ってきた大規模改装が終わり、6日に公開した。京都の風情と現代的デザインをテーマに、竹林を表現した装飾などを内外装に導入した。客室はシングルルーム20室を廃して全室2人以上宿泊できるようにし、7室増の489室となった。8日に開業する。中村雅昭総支配人は「外国人の宿泊を伸ばし、客室単価の引き上げを目指す」と集客への自信を語った。
京都駅周辺ではここ数年、開業後30~40年以上たったホテルの大規模改装が集中している。2020年の東京五輪を見据え、客室や宴会場、設備をリニューアルしている。
京都新阪急ホテル(下京区)は畳の客室を新設し、新・都ホテル(南区)は約24億円を投じてロビーやレストランなどを改修。京都センチュリーホテル(下京区)は環境と健康を前面に3年間で全219室を改装。ホテル京阪京都(南区)は客室を1割増の320室に拡充した。ホテルグランヴィア京都(下京区)も開業20年を迎える17年度に全館改装に着手する予定。
ホテルの新・増築計画も多く、6日にはアパグループ(東京)が京都駅北側に新築する「アパホテル」の起工式を現地で開いた。市内で5棟目で、レストランを備えた計105室を整備する。出席した元谷一志社長は「関西国際空港への格安航空の就航などで外国人観光客はまだまだ伸びる」と述べ、京都でのさらなる展開に意欲を示した。
駅南側の宿泊特化型ホテル、エルイン京都(南区)も来年秋をめどに敷地内で76室の新棟を増築する。既存の512室は大半がシングルルームだが、新棟は全室でツインを導入。昨年に京都市が行った容積率緩和で建築が可能になった。既存の客室も営業を続けながら今年末から18年1月までに順次改装するという。
市が宿泊施設の増加を要望していることもあって、京都駅周辺ではほかにもホテルの新築計画があり、価格やサービス競争は今後も続きそうだ。